全3回で居場所についてのストーリーをお届けしています。第1回はこちら。
折賀の入院により、「ほっこり弁当」は人手不足に陥っていた。もちろん、ゆみと比屈は懸命に働いていたが、通常業務に加え、2号店の出店準備も同時に進めなくてはならず、てんてこ舞いの状態となった。ミミも会社が休みの日に手伝ってはいたが、弁当店が最も忙しい平日朝～昼には手伝えないため、厳しい状況が続いた。そんな中、閉店後の店に若い女性がやってきた。
「こんばんは」
店の前に立っていたのは佐藤えみりこだった。当時付き合っていた紺須田男の命で、折賀から大金を奪おうとしていた女性である（詳細は前回のお話を参照）。途中で良心の呵責を感じて断念したという経緯があり、その場にはゆみ・ミミ・比屈も立ち会っていた。
ゆみは少し戸惑いながらも、えみりこを店に招き入れた。えみりこは、
「こちらのお仕事を手伝わせてください」
と申し出る。折賀が入院したことを聞き、少しでも罪滅ぼしをしたいということだった。
「うちは助かるけれど……」とゆみは戸惑ったが、
「飲食でのアルバイトの経験はあります。ぜひお手伝いさせてください」
というえみりこの押しに負け、短期アルバイトとして雇うことを決めた。
えみりこは弁当づくりの経験はないということだったが、注文をさばくことや客を待たせる際の言葉掛けなどがうまく、「さすが飲食経験者」とゆみは感心した。客の中には早くもえみりこファンが生まれつつあった。
折賀の退院も間近に迫ったある日、不穏な出来事が起こった。閉店後、店のシャッターに落書きがされ、生ゴミが店の前に撒かれていた。早朝出勤したゆみが発見した。ゆみは即座に警察に通報し、防犯カメラの映像を調べてもらったが、犯人は顔が見えないようフードを深く被っており、特定には至らなかった。
「やっぱり紺の仕業？」とゆみ。
「どうしてここまでするんでしょう」と比屈。
「私のことを追っているんだと思います。お手伝いするつもりが、お店にご迷惑をお掛けしてしまって……」とえみりこ。
ゆみは、えみりこの肩に手を置いて言った。
「あなたのせいじゃないわ。私たち、一緒にこの難局を乗り越えましょう」
その夜、ゆみが病院に折賀を見舞うと、折賀は真剣な面持ちで言った。「紺は、私だけをターゲットにしているのではなく、店を潰そうとしているのかもしれない。ゆみさん、くれぐれも気をつけてください」
ゆみは頷いた。
「うん、気をつけるようにする。折賀さんは今はゆっくり休んで傷を治してね」
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