カモにならない50代 驢馬家ストーリー

騙し騙され振り振られ【第1回】思わぬ騒動の幕開け

今回より全3回でロマンス詐欺についてのストーリーをお届けします。

登場人物

折賀斉衡(おれがさいこう):60代男性。「ほっこり弁当」でアルバイトとして働いている。以前は高慢な性格だったが、「ほっこり弁当」の人たちの影響で変わった。行楽弁当やおせち料理などにオリジナルメニューを提案するなど、主戦力になっている。

驢馬ゆみ(ろばゆみ):東銀座で小さい弁当店「ほっこり弁当」を営んでいる。夫と死別し、女手ひとつで一人娘を育てた。比屈と折賀の2人をアルバイトとして採用し、早朝の仕込みを手伝ってもらっている。2人のおかげで繁盛してきたので2号店出店も検討している。

比屈菜乃(ひくつなの):60代女性。夫と死別し、東銀座の小さい弁当店「ほっこり弁当」でアルバイト勤め。以前は卑屈な性格だったが、ポジティブに変わった。

驢馬ミミ(ろばみみ):ゆみの一人娘。派遣社員として印刷会社の科割社で働いている。たまに「ほっこり弁当」に顔を出すことがある。

最近、折賀斉衡(おれがさいこう)の様子がおかしい。東銀座の小さな弁当店「ほっこり弁当」を営む驢馬ゆみ(ろばゆみ)は、そう思った。折賀は60代の男性で、以前は高慢な性格だったが、「ほっこり弁当」で働くことで変わってきており、今では店の主戦力となっていた。そんな折賀が、ここ最近はいつも上の空で、細かいミスを繰り返している。体調でも悪いのかと思ったが、いつも顔に笑みを浮かべていてなんだか本人はほんわかした雰囲気である。

 その日、弁当容器を100個ほど床にぶちまけた折賀を見かねたゆみは、彼を小さな休憩室に呼び出し、コーヒーを淹れながら切り出した。
 「折賀さん、最近どうしたの?何か悩みごとでもあるんじゃない?」
折賀は目を伏せがちにしながら、「いえ、何もないです」と言葉を濁した。
ゆみはコーヒーを折賀の前に置きながら、「私には話せないような悩みごと?」と食い下がった。
しかし、折賀は「大丈夫です。心配をお掛けして申し訳ありません、今日みたいなミスをしないよう、気をつけます」と頭を下げるだけだった。
結局、折賀から何も聞き出せないまま、その場は終わってしまった。

しかし、ゆみは次の日に娘のミミから信じがたい話を耳にする。
「お母さん!私見ちゃったんだよ、折賀さんがね!!」
ミミは、折賀がうら若い女性と手をつないで歩いている姿を目撃したというのだ。しかもこの間原宿にできたばかりの新しい商業施設の中にいたという。
「失礼かもだけど、折賀さんが行きたいと思うような場所じゃないの。若い子だらけで……」
「娘さん?いや折賀さんに娘さんはいないはずだけどね。姪っ子なのかも」
「違うの!どう見ても親密な感じだったの!一緒にジェラート食べたりとか!」
「あんた、どれだけ見てるのよ」
「いや、だって気になるじゃん?あの怖い顔の人がとろけるような顔してて……」
「恋人ができてラブラブってことなのかもね。最近折賀さん上の空だったから、体調でも悪いのかと心配してたの。新しい恋人に夢中になっているだけだったら良かったわ」
「うん……そうだけど……」
ミミは納得いかない様子だったが、ゆみは、従業員のプライベートに踏み込むのもどうかと思い、そのままにしておくことにした。

*        *        *

しかし、数日後、折賀から急にアルバイト料の前借りを依頼されたことで、ゆみは「何かおかしい」と直感した。突っ込んで話を聞くことにする。
 折賀はなかなか口を割らなかったが、根気強く聞き出したところ、若い彼女の存在を認めた。どうも彼女が折賀に金を無心しているらしく、折賀の乏しい貯金が底をつきかけているという。
「その方は何をしている方なの?なぜそんなにお金が必要だと?」
「いや彼女がお金をくれと言っているわけではないんです、ただ事情を聞いて、自分が助けてあげたいと思っただけで」
「すごく若い方なんでしょう?大金が必要なことがあったら、親御さんが出すべきじゃない?」
「複雑な家庭で、そこから抜け出したいと。専門学校の学費を援助したいと思っています」
「それって、100万円単位のお金が必要ってことじゃない。うちの薄給では全然足りないのでは?」
「いえ、いろんなものを売ったり借金したりしてかき集めたらなんとかなりそうなんですが、自分の生活費の方が足りなくなるので、前借りをお願いしました」
それを聞いて、ゆみは真剣な声で言う。
「折賀さん、正直に言わせてもらうね。前借りがどうしても無理ということはないです。あと、折賀さんには期待しているので、社員になってもらってお店を任せることも考えています。その場合にはお給料もアップさせてもらいます」
「そうなんですか?ありがとうございます」
「でもね。折賀さんのことは信用しているけれど、その方は信用できないの。申し訳ないんだけど。なので、検討するのに1週間だけ待ってもらえない?前借りもそうだけど、その方にお金を貸すのも今すぐじゃなくて、1週間後に伸ばしてほしいの」
「1週間……?確かに専門学校の入金締め切りはまだちょっと先だとは思いますが」
「来週またお話しましょう」
 ゆみは、折賀の彼女のことを調べてみることを決意した。

第2回

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