全3回でロマンス詐欺についてのストーリーをお届けしています。第1回はこちら。

翌日、ゆみはほっこり弁当のもうひとりのアルバイト、比屈菜乃(ひくつなの)とミミを閉店後の店に呼び出した。折賀の件を話して一緒に調査をしてほしいと2人に頼んでみる。
「やっぱり!怪しいと思ってたんだ」と言うミミ。一方、比屈は、
「年の差カップルだからと言って、初めから彼女を疑ってかかるのはどうでしょう?お金も折賀さんの方が出したいと言っているだけなんでしょう?」と冷静だった。
「そうよね。おせっかいだと自分でも正直思う」とゆみは潔く認めた。
「もちろん、彼女が潔白だったら、誠心誠意謝るわ。でもやっぱりちょっとおかしいと思うのよ」
ゆみは折賀から他にも聞き出したことをふたりに伝えた。彼女からの束縛がかなり激しく、誰にも相談しないように仕向けていること(ゆみも相当粘らないと聞き出せなかった)、専門学校の学費以外にも、いろいろな理由をつけて折賀から何度もお金を引っ張っていること、しかも折賀に自分から進んで出していると信じさせていること、その割に折賀に対する愛情が感じられないこと。折賀は「ツンデレというんですかね?そういうタイプなんだと思います。でも優しいときもあるんですよ」とかばっていたが。
「それを聞くとちょっと怪しいですよね」と比屈。
「で、どうする?尾行でもする?」ミミは少し楽しそうだ。
「なんでもおもしろがらないの。まずはネットで少し調べてほしいのよね」
ミミが自分のスマホで検索を始める。
「名前は?」
「佐藤えみりこだそうよ」
「えみりこ?本名なのかな……あ、インスタアカウントがあった」
3人がスマホ画面をのぞき込むと、そこには「えみりこワールド」とも呼ぶべききらびやかな世界が広がっていた。
「ま、まぶしい……」とミミ。
「いやすごいですねこれ。キラキラというんでしょうか?」
インスタグラムも一時期ほどは「映え」などを重視しない人が増えているらしいのだが、えみりこのアカウントはブランドバッグやファッション、アクセサリー、アフタヌーンティー、整形手術のビフォーアフター、高級レストランや高級ホテルなどの写真がてんこ盛りで、「お金たくさん持っています」&「お金をたくさん使っています」というアピールにしか見えなかった。ただ、ここまで激しくアピールしていても、フォロワー数が少なく、コメントもゼロなのが不思議だった。
「このアカウント、折賀さんは知ってるのかな?学費足りないって言っている子がこういうインスタやるのってなんか変だよね……」
「インスタの中だけで見栄を張っているとか?」と比屈。
「見栄なのかな。あ、男性と食事してる写真が。折賀さん?」
「顔は写ってないけど、もっと若い人だよ。体格も全然違うし」
「最近の写真にもこの男の人出てくるね」
ゆみはミミと顔を見合わせた。
「折賀さんにばれたらまずいと思わないのかな?」
「いや折賀さん、ネットやらないって言ってましたよ。SNSはアカウントも作ってないと思います」と比屈が答える。
「だからやりたい放題なんだ」
「同姓同名の別人じゃないですよね」と比屈が念のためというように尋ねる。
「私、この間原宿で折賀さんと彼女が一緒に歩いているところ目撃したんだけど、確かにこの写真の人だったよ」とミミ。
ゆみは不思議に思った。
「どうしてこんな人が折賀さんと付き合ってるんだろう。趣味も合いそうにないし。金づるなんだとしても、社長とか投資家とか、もっとお金持ちの人と付き合えばいいんじゃ?」
「もしかしたら、この写真に出てくる男の人がそうなんじゃないかな」とミミが言う。「それで折賀さんとは別の狙いがあって付き合っている、とか」
ゆみはぞっとした。そして瞬時に決意を固める。
「ミミ、やろう」
「おっ。やっぱり尾行、やりますか」
「あの、私も……」比屈がおずおずと手を挙げる。「私もお役に立ちたいです。折賀さんのこと、放っておけないです」
「比屈さん、ありがとう。じゃあ3人でがんばりますか!」
「エイエイオー!」
円陣を組んで気合いを入れる。
* * *
折賀とえみりこの次のデートの日を聞き出す担当は比屈だった。幸い、ほっこり弁当がお休みの日曜に渋谷でデートするということ、ランチのレストランも予約済みということで尾行はできそうだった。3人は当日変装して現場に向かう。老婆の扮装をしたミミと反対に若づくりをした比屈に対し、ゆみは苦言を呈する。
「ミミも比屈さんもやりすぎじゃない?」
「お母さんこそ、そのサングラス、逆に悪目立ちしてるよ」
「いいのよ、バレさえしなければ!」
3人が目立たないように建物の陰に隠れ、しばらく待っていると、折賀とえみりこがレストランから出てくる。
「おいしかったね。折賀さん、ごちそうさまでした」
「え、あ……この後……」
「また電話するね。あ、学費もそろそろ準備お願いねー」
えみりこはこの日ランチだけが目当てだったようで、何か言いかけている折賀をさえぎり、さっさとひとりで帰っていく。がっくりと肩を落とした折賀にゆみは何か言葉をかけたいと思ったが、
「さ、行くよ!」というミミの言葉に慌てて、えみりこの尾行を開始した。
えみりこは渋谷の街中を早足で歩いていき、東急百貨店本店を過ぎて松濤の方へ向かった。雰囲気のある一軒家カフェの中に迷いなく入店する。
3人は顔を見合わせた。尾行は素人である。顔は割れていないとは言え、自分たちも一緒にカフェの中に入るべきか、それとも外で待つべきか判断に迷った。そんな3人を高身長の男性がすりぬけてカフェの中に入っていく。
「あ、あの人!」ミミが小さく叫ぶ。
「どうしたの?」
「えみりこさんのインスタに出てきた男の人だよ。あのすっごい時計いつも着けてるの」
「スイスのコンスタンティノープルみたいなブランドですよね」と比屈。
「そうそう!500万円くらいするらしいよ」
ゆみはつい「なんでスイスでコンスタンティノープルなのよ」とつい突っ込みたくなってしまったが、ぐっとこらえ、
「ここでえみりこさんと待ち合わせしているってことかな」
と言う。ミミと比屈はハッと口をつぐんだ。
「やっぱり乗り込んだ方がよさそうよね」
ゆみは不敵に笑い、
「いい?正念場だよ」と2人にささやいた。
ミミはノリノリで、「カチコミですか、兄ぃ」と言う。
「なんで兄ぃなのよ、母でしょ」
比屈もミミに影響されたのか、「行きやすぜ、おふたりさん!」と肩で風を切りながらカフェの中に入っていった。
ゆみとミミも後を追いかける。いよいよ決戦が始まりそうだった。
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