50代からの海外転職上級

海外出羽守にはならない

「海外出羽守」という言葉をご存じでしょうか?海外と比較して日本を何かと批判する人のことです。海外に長期滞在すると日本の問題点に気づいて何か一言言いたくなりがちです。もちろん問題提起することには意味があると思います。ただし、日本には日本の事情があり、歴史的経緯から今の状態になっていることも多いです。それらを丸ごと無視して「海外=善、日本=悪」という単純な図式に落とし込むのはあまりに雑すぎます(逆の場合も同じです)。本記事では海外出羽守的思考に陥らないためのヒントについてお伝えします。

なぜ海外にいると日本の問題点を指摘したくなるのか

海外で生活すると、日本とは異なる文化、価値観、生活様式に触れる機会が多くなります。この新しい環境は、日本にいたときには気づかなかったさまざまな問題点や改善の余地に目を向けさせるきっかけとなります。主な理由として以下の点が挙げられます。

文化的な相違による新たな視点の獲得
海外にいると、日本では当たり前とされている多くの社会的、文化的慣習が必ずしも普遍的ではないことに気付かされます。例えば、労働環境、教育システム、ジェンダー平等など、異文化の中で見る日本の「常識」は、改善や見直しが必要な側面を持っていることが明らかになることがあります。

比較による自国の課題の浮き彫り
異なる国々の良い点を目の当たりにすると、自動的に自国と比較してしまいます。この比較から、日本独自の社会問題や制度上の課題が浮き彫りになることがあります。特に、海外の柔軟な働き方や社会制度の先進性に触れた後では、日本の硬直性や遅れが目につきやすくなります。

客観的な距離感による自国評価
海外に住むことで、日本社会から一定の距離を置くことができます。この客観的な距離感は、日本の良い面だけでなく、問題点をより公平に、冷静に評価することを可能にします。自国に対する愛着や誇りとは別に、課題を直視し、批判的に考察することが容易になります。

批判的精神は大切、表現する場所や相手を選ぶ

海外生活を送る中で、多様な文化や価値観に触れることで、自国の社会や制度に対する批判的な視点を持つことは自然な現象です。しかし、この批判的精神をいかにして健全に保ち、有効に活用するかが重要となります。

批判の本質を理解する
批判は単に否定することではなく、現状を深く理解し、改善や解決策を模索する過程で必要なステップです。問題提起をすることで、新たな議論を生み出し、より良い方向へと導くことができます。批判的精神は、このような建設的な議論の出発点となり得るため、大切にすべきものです。

表現する場所や相手を選ぶ
どんなに有益な批判であっても、伝える場所や相手を誤ると、その意図は正しく伝わらず、場合によっては不必要な誤解や対立を生むことになりかねません。特に文化的背景や価値観が異なる相手とのコミュニケーションでは、この点がより一層重要です。公の場やSNSでの発言には特に注意が必要で、プライベートな場や信頼できる相手との対話の中で、より深い議論を交わすことが望ましいです。

建設的な批判を心がける
批判的精神を持つことの真の目的は、単なる否定ではなく、事態の改善や解決に向けた一歩を踏み出すことにあります。そのためには、批判の根拠を明確にし、可能な限り客観的な事実に基づいて発言することが重要です。また、自身の意見に対する反論や異論にも耳を傾け、柔軟な姿勢を保つことで、より豊かな議論へと発展させることができます。

海外での知見を建設的に生かすには

海外での経験から得た知見は、個人の成長はもちろん、社会や組織にとっても大きな価値を持ちます。しかし、その知見をいかにして建設的に生かすかは、しばしば難しい課題となります。以下に、海外で得た知見を日本で建設的に活用するためのポイントをいくつか紹介します。

知見を共有する際のアプローチを工夫する
海外での経験を共有する際には、単に「海外ではこうだった」と情報を提供するだけでなく、なぜそれが重要なのか、日本の文脈でどのように活かすことができるのかを明確に伝えることが重要です。また、聞き手の立場や関心に合わせて、情報の提示方法を調整することで、より受け入れられやすくなります。

異文化間の違いを理解し、尊重する
海外で学んだことを日本で応用する際には、単純に模倣するのではなく、異文化間の違いを理解し、その上で適応させる必要があります。文化的背景や社会的条件の違いを考慮に入れ、日本の状況に合わせてカスタマイズすることが成功の鍵となります。

複数の視点からの評価を求める
海外での知見を元に何か新しい提案をする場合、自分一人の判断だけで進めるのではなく、複数の視点からのフィードバックを得ることが重要です。異なるバックグラウンドを持つ人々と意見を交換し、多角的な評価を求めることで、提案の質を高め、より実現可能なアイデアに磨き上げることができます。

長期的な視野を持つ
海外で得た知見を活かすためには、短期間で結果を求めず、長期的な視野を持つことが大切です。特に、文化や制度の違いに基づく提案の場合、受け入れられるまでに時間がかかることがあります。持続可能な変化を目指し、根気強く取り組む姿勢が求められます。

単純な日本アゲもまた問題

海外での生活や経験は、多くの場合、自国に対する見方を変える契機となります。中には、海外でのつらい体験を経て、日本の文化や制度、生活様式を理想化する傾向に陥る人もいます。しかし、このような一方的な視点もまた、バランスを欠いたものになることがあります。

理想化の落とし穴
海外での経験に基づき、日本を理想化することは、一見、愛国心の表れのように思えるかもしれません。しかし、この過度な日本賛美は、しばしば現実の問題点を見過ごすことにつながります。全ての国には長所と短所があり、理想化によって短所が見えなくなると、それらの問題に対処する機会を逃すことになりかねません。

文化的優越感
日本アゲが引き起こすもう一つの問題は、文化的優越感です。他国を経験した上での日本の賛美は、しばしば他国への批判とセットで語られがちです。これは、国際社会での相互理解や協力の精神に反するものであり、他国との健全な関係構築を妨げる原因となります。

偏った情報の拡散
SNSの普及により、個人の意見が広く共有されるようになった現代において、日本アゲの考えを持つ人々が発信する内容は、しばしば偏った情報となり得ます。これが拡散されることで、社会全体の視野が狭まり、多様性や包容力の重要性が軽視されることにつながる恐れがあります。

バランスの取れた視点の必要性
真の国際理解や自国への深い愛情は、盲目的な賛美ではなく、批判と賛美のバランスから生まれます。海外での経験を通じて得た知見を、公平でバランスの取れた視点で自国に還元することが、個人の成長はもちろん、社会全体の発展に繋がります。日本アゲも海外出羽守も、どちらも一面的な視点に基づくものであり、広い視野を持って多角的に物事を考えることの重要性を、改めて認識する必要があるでしょう。

まとめ

海外での経験は、自国を再評価する貴重な機会を提供してくれます。しかし、その評価は、日本の文化や歴史を理解した上で、そして建設的な形で行われるべきです。海外出羽守にも、盲目的な日本アゲにもならず、多角的な視点を持って日本と自分自身の成長に繋げていくことが重要です。

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