50代の自己肯定感 驢馬家ストーリー

自分を認めるとは【第1回】新しい出会い

今回より全3回で自己肯定感についてのストーリーをお届けします。

登場人物

驢馬ゆみ(ろばゆみ):東銀座で小さい弁当店「ほっこり弁当」を営んでいる。夫と死別し、女手ひとつで一人娘を育てた。
比屈菜乃(ひくつなの):60代女性。若い頃は明るい性格だったが、結婚後専業主婦となり、夫が高圧的だったため、自己肯定感が下がり卑屈な性格になってしまった。自分が悪くないときにでもすぐ「すみません」と謝ってしまう。夫と死別し、今回40年ぶりに働くことになった。
折賀斉衡(おれがさいこう):60代男性。長く一流企業で働いてきたことが自慢。実は長年勤めても出世できなかったが、そのことを他人には秘密にしている。自分に自信がありすぎて、一流企業を定年退職した後、退職金をすべて使い果たし、未経験でそば屋を出店したが失敗した。その際妻からも離婚されてしまって、狭く古いアパートで一人暮らし。お金がないのでアルバイトの仕事を必要としている。頭が硬く、すぐに大声を出してキレる。
驢馬ミミ(ろばみみ):ゆみの一人娘。派遣社員として「ほっこり弁当」の近くにある印刷会社の科割社で働いている。

東銀座の路地裏にある「ほっこり弁当」。一部の界隈でひそかに人気の手作り弁当店である。家庭的な味付けで盛りが良いのと、ひとりで店を切り盛りしている驢馬ゆみ(ろばゆみ)の接客が近場の会社員の好評を得ている。ゆみは、夫を亡くしてから一人娘のミミを育てながら、この店を切り盛りしてきた。

しかし最近、ゆみはぎっくり腰をやってしまい、早朝の仕込み作業が思うようにできなくなってしまった。

「もう、この歳になると体力の限界を感じるわ。助けが必要ね」

ゆみは一大決心をして、アルバイトの募集をかけることにした。時給があまり高くないこともあり、応募者は数少なかったが、その中から60代の比屈菜乃(ひくつなの)と折賀斉衡(おれがさいこう)の2人を採用。交代で早朝の仕込み作業に入ってもらうことにした。

ところが、仕事が始まると問題が浮上した。

「比屈さん、先週も言ったのですが……」
「あああすみません!覚えが悪くてすみません!もう間違えないようにしますから!」
「いえ、間違いというわけではないんですよ、そんなに萎縮しないでね。こちらに器を置いた方がスムーズに作業が進められると……」
「あああすみません!勝手に早とちりしてすみません!」

「折賀さん、汚くなる前に台はこまめに拭いてくださいね」
「ああ?そんなの後でまとめてやりゃあいい」
「衛生上良くないですし、お弁当の容器に万が一でも汚れがついたら……」
「誰にもの言ってんだ?俺はきちんと見てんだよ、絶対やらかさねえから!!」

比屈は指導や指摘に対して「すみません」としか言わず、卑屈な態度でゆみを疲れさせる。一方、折賀は飲食店を経営した経験があるためか、自分を高く評価しすぎていて、ゆみの注意には耳を貸さない。自己肯定感が低すぎる相手も高すぎる相手も対処するのに苦労するということをゆみは初めて知ったのだった。

「どうしてこんなに思い通りにいかないの……」

採用を失敗したのかもと悩んでいた矢先、娘のミミが店に遊びに来た。ミミは派遣社員として近くにある印刷会社で働いている。変化フリーク&提案マニアで、日々会社を変えるためにいろんな提案をするのが癖になっているのだという。ゆみは思わず、そんな娘に比屈と折賀のことを愚痴ってしまった。

「お母さん、大変そうだね。でも、私にいいアイデアがあるよ」
ミミは謎めいた笑みを浮かべた。果たして、ミミのアイデアとは一体何なのだろうか。そして、比屈と折賀の態度に変化は訪れるのだろうか。

第2回

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